雨乞いの物語。
イスラエルと日本の山間部の水源近くや田園地帯の風景、伝説、神事を織り交ぜ、 水と人の在り方について語る。
マイムは「水」という意味で、イスラエル開拓時に地下水を掘り当てたユダヤ人たちの歓びの歌。
旧約聖書のヤハウェは雷と雨を操り、恵みの雨を降らせるが、裁きの雷も落とす。イスラエルの大地は雨の降り方によって耕作地になるか荒れ地になるかが決まる。
遮るもののない砂漠を歩くと、逃げ場のない、空と地のなまなましい関係を痛感する。
体を一つずつ奪っていく泥棒と、囚われて動けなくなったひとが雨を待つ物語。


A story of rain-making. The story is about the relationship between water and people, weaving together scenes from Israel, the mountains and countryside of Japan, legends, and rituals. maym means “water,” and is a song of joy for the Jewish people who dug for underground water when they settled Israel.
Yahweh controls the thunder and the rain, bringing down rain of blessings but also lightning of judgment. The land of Israel will either be arable or a wasteland depending on how the rain falls.
As I walked through the unobstructed wasteland, I became acutely aware of the fragile relationship between the sky and the earth, from which there is no escape.
The thieves who take away the bodies one by one, and the people who are trapped and unable to move, wait for the rain.





泥棒は天幕を切り裂いて舞い降りた
蝶々のように

片足が盗まれるのを黙って見ていた
ラジオが意味のない歌を歌っていたから気をとられて
上から下へ降りていって
一つずつ盗んでいくつもりらしい

足、腹、胸、腕、地下室にいるひとからは目を
地下室のひとはめくらだけど

人形の材料だから見えなくてもいいと泥棒は言った

曲がり角の先で踊る足を見かけた
もって帰ろうとしたら
足の上についた知らない顔に噛み付かれた
毒が回って口がまわらない
だから連れ去られても何も言えない

その時人形たちは庭園で祝日の昼を模倣していた
しかしテーブルには水がない
昨日の夜に生きながらえて

肺は今日は火にくべられる
明日足を盗まれて魚になる


日曜の朝に噴水広場にパンをもらいに行く前に
今日の朝が昨日の夜の続きだと思えないようだったら絵はうまくいくと彼は言った

彼のスケッチブックから
描かれた片腕が飛び出して
シャワーのコックをひねった
青ざめたそれは見覚えのある指先
昨日からどうしてもコップが持てないのは腕がなかったからなのかと浴槽の底で思う


見張りは炉に投げ込まれ
暗い部屋で転がりながら
今日の日付を思い出した


彼は夜が近づくと、腰を曲げて地面を這う
まるで雨を呼ぶけもの
地面に乾いた魚の死体が落ちているのを見つけた
ドアのそばまで水が迫ってきている
出て行って飲んでおいでと彼は言いながら
次々に目の前のものを描いて
テーブルも椅子も人形たちもすべて消してみせるから
いったいどこからが外なのか分からなくなってしまって
出られないのだと言ったら彼は笑った

形はすぐになくなってしまうからね

最後に彼が乾いた魚を描ききると
それは先っぽからするすると解けて
鈍色のけむりとなって空の上へ昇っていった
もうすぐ雨が降るのだと気付く